静岡のご当地野菜|濃厚な旨さ!清水が誇る折戸なすの魅力
静岡県静岡市清水区にある折戸の地名が付いた「折戸なす」をご存知でしょうか。
丸っこくてツヤツヤしていて可愛らしいフォルムなのに、食べると濃厚な味わいと甘みが楽しめる美味しいナスなんです。
筆者も静岡に居住していながら、一度も食したことがない「折戸なす」。
せっかくだから生きている内に食べてみたい!と思い、生産者さんに詳しいお話を伺ってきました。
折戸や三保の風景と併せて「折戸なす」の魅力に迫ります。
縁起の良い初夢に見る三茄子
「折戸なす」を紹介される際、よく引き合いに出されるのが「一富士二鷹三茄子」ということわざ。
初夢で見ると縁起が良いと云われていますよね。
しかし、肥前平戸藩主、松浦静山が記した甲子夜話によると家康公が駿府にいた時、献上品である茄子の初値の高さに驚き、駿河で高いものは一に富士、二に鷹(愛鷹山)、三に茄子と言われたとあります。
歴史の諸説は様々ですが、ことわざの中の三茄子は「折戸なす」のことであり、清水の折戸村で作られた歴史ある野菜なんですね。
家康公が駿府に滞在していた時代から早出しの茄子やウリが献上品として納められていたという史実があります。
地域の特性を活かした促成栽培
茄子はもともと熱帯インドの生まれのため、自然のまま育てると真夏が収穫時期になります。
一般的なナスの季節を感じるのも夏や秋のイメージがありますよね。
ところが、当時は旧暦の4〜5月に収穫され、献上が行われていました。
折戸を含む静岡県・三保半島は冬季の日照時間も長く、温暖な地域であることから早出しができる促成栽培に向いていたのです。
とは言え、献上品として膨大な数を状態の良いまま江戸へ送りますから、村の一大事業として取り組まれていました。
先人たちの試行錯誤やご苦労があったからこそ、季節を前倒して収穫し、無事に納めることができていたんですね。
もちろん、お役所からの催促もあり大変な面もあったようですが‥。
特別サイズで徳川家に献上されていた!
現在の「折戸なす」は手のひらいっぱいに乗る大きさですが、神事や献上の時期に合わせるため当時はかなり小ぶりな姿。
献上するにあたり、直径約7センチ、深さ2.7センチほどの編みカゴに桜の葉を敷き5個並べると文献に残されています。
しかも、5個入りのカゴを100カゴ納めるというのですから、頃合いの良いなすの数を揃えるため、ものすごい努力のもと行われていたんですね。
さらに特別な飛脚を頼み、江戸まで2日で送らせたとのこと。
献上品としての「折戸なす」に高い価値があり、初物として早作りされることが求められていた様子も伺えます。
「折戸なす」復活に向けた道
ところが明治以降、歴史的由緒ある「折戸なす」は一度姿を消してしまいます。
三保は促成栽培に向いた土地柄のため、イチゴやトマトなど他の作物の生産が台頭するなど様々な要因がありました。
徳川幕府献上品としての華やかな時代から、歴史の波に埋もれてしまった稀有な野菜だったんですね。
その後、地元の郷土史研究家の発刊した冊子により、「折戸なす」の存在が徐々に知られるようになります。
そこで静岡県中部農林事務所が、国の研究機関に保存されていた種子を活用し試験栽培を始めます。
広く注目が集まることで三保地区の歴史ある野菜「折戸なす」復活に向けた歯車が動き出していくのです。
2005年に開始された試験栽培から、より特徴的な形状の丸型を選び抜き、時間を掛けて産地化。
生産組織であるJAしみず折戸なす研究会が2007年に発足し、同じ年に出荷が始まりました。
歴史を繋ぐため、現在でも毎年、久能山東照宮に献上されているのです。
丸型が特徴的な「折戸なす」
「折戸なす」の姿は思ったよりも大きく、丸っこくて可愛らしい形をしています。
長さが同じくらいの通常の茄子と比べると重さは約2倍。
身がぎゅっと詰まっており、きめ細やかな肉質は、濃厚な味わいや甘みを楽しませてくれる逸品です。
ただし、生産するには難しい一面もあります。
鋭いトゲが多く、大きな種ができやすい、さらに形状の維持など理想の「折戸なす」を目指すためには手間が掛かる作物とのこと。
収穫量も少ないため、市場に広く出回るのが困難なようです。
手に入りにくい貴重な地域野菜
現在は東京市場の一部と県内(主に清水区内)のイオンやマックスバリュ東海などのスーパー、農協の直販サイト JAタウン内の「JAしみずアンテナショップきらり」など限られた場所で販売されています。
地元の小学校では学校給食で食べられることもあるそうで、通学中の子どもさんたちが羨ましいですよね。
現在、「折戸なす」を生産している農家さんはお話を伺った方も含め、6軒あります。
惜しみない手間を掛け、美味しい「折戸なす」を生み出してくれている生産者さんには本当に頭が下がります。
伝統野菜であり、折戸という地名の付いた魅力的な「折戸なす」は、一つひとつ丹念に育て、歴史を受け継ぎ、守ってくれている農家さんたちの努力の賜物です。
後継者問題が叫ばれる農業において、「折戸なす」を受け継いでくれる新たな担い手が訪れることを切に願いたい!
お話を伺ってそう感じました。
実食!「折戸なす」を調理する楽しさ
そんな貴重な「折戸なす」をさっそく食してみたいと思います!
肉質がしまり、濃厚な味わいとコクが特徴的。
油との相性はもちろん、味噌やチーズとも合うそうです。
試したのはシンプルに薄切りにした両面焼き。
確かに甘くて濃厚で美味しい!
生産者さんのおすすめ!「折戸なす」の食べ方
生産者さんおすすめは、焼きなすにした「折戸なす」をちぎって、大根おろしと葉ネギを添えた和風のなめこあんかけを盛り付ける一品。
椎茸などのキノコ類との相性が良いと教えてくれました。
ヘタや軸のトゲに注意して調理してみてくださいね。
静岡市清水区のご当地野菜「折戸なす」
今回、生産者さんにお話をお伺いし、「折戸なす」の美味しさを多くの人と共有できたら良いなぁと思いました。
「折戸なす」は5月下旬から12月まで、間1ヶ月ほどのお休みを挟みながら長期間出荷されています。
また、紫色の皮に含まれるナスニンや身に含まれるアクは、老化防止や生活習慣病予防に必要な抗酸化作用が期待できる成分です。
「折戸なす」を求めてふらりとお出掛けする食旅も楽しいですよね。
三保の松原や富士の景色を楽しみながら、清水区三保へ足を運んでみるのはいかがでしょうか。
この記事をSNSでシェア